介護保険の危機(読売新聞朝刊2023.8.6)
2023/08/07
「介護保険の危機」 日本対がん協会会長 垣添忠生先生
介護保険制度は、認知症や身体の不自由な高齢者らに手を差し伸べる極めて重要な社会保障である。
2000年4月に始まった介護保険が、高齢者の急増や介護職員の不足によって、深刻な問題に直面しつつある。
第一の課題は、高齢化の進展による要介護者の急増だ。厚生労働省によると、要介護・要支援の認定を受けた人は、20年3月末時点で669万人に上る。約20年で約2.6倍になった計算である。
日本では、65歳以上の高齢者が全人口に占める割合を示す「高齢化率」が、20年に28.6%となった。他の先進国を見ると、ドイツ21.7%、英国18.7%、米国16.6%などとなっている。
日本は既に突出して高い。しかも、日本の高齢者人口は、あと20年近く増え続ける見通しである。
高齢者の増加によって、介護保険制度を支える社会保障財源も、一段と厳しさを増している。
戦後生まれの団塊世代は、25年に全員が75歳を以上の後期高齢者となる。19年の実績値を見ると、1人あたりの介護費は65~74歳は約5万だが、75歳以上は約47万に跳ね上がる。介護費が割高な後期高齢者が近く急増し、財政を一段と圧迫するだろう。
第二の課題は、介護職員の確保である。25年度には243万人の介護職員が必要とされているが、19年度の職員数はこれより32万人も少ない。給与水準が低いこともあり、人材確保へのハードルは高い。
介護保険制度が財政悪化などの課題を乗り越えるには、利用者の自己負担増など、制度改革は避けられない。それとは別に、医師として長年現場に立った経験から、難局に対処する視点を三つ指摘したい。
第一に、自立して生活できる「健康寿命」を、できるだけ伸ばすことだ。健康寿命は介護の支援を受けずに生活できる年齢の平均を示す。2019年時点で、女性は75.38歳、男性は75.38歳である。平均寿命は、女性87.45歳、男性81.41歳なので、介護が必要な平均年数は、女性が約12年、男性が約9年となっている。介護に頼る生活が10年前後も続くのは、本人の苦悩はもちろんのこと、財政的にも大きな痛手だ。健康寿命は、個人の努力で延ばせる。ポイントは筋力、特に下肢の筋力維持だ。歩ける人は毎日歩くことを習慣にしてほしい。
第二の視点は、慢性的な介護人材の不足を、いかに解消するかである。来年度は、原則3年に1度の介護報酬改定が行われる。介護職を魅力のある職業とするため、可能な範囲で処遇を改善させる必要がある。外国人労働者の活用も大きな課題だ。技能実習制度も1993年に始まったが。本来の狙いは人材を育てて途上国に技術や知識を伝える国際貢献だったが、安価に労働力を確保する手段とされてきた面は否めない。日本は外国人労働者に「選ばれない国」になりつつある。介護現場を日本人にとっても働きがいのある職場にしなければ、海外人材の拡大もおぼつかないだろう。
第三のポイントは、介護現場で収集したビッグデータをAI(人工知能)で分析するなど、新たな技術を駆使して新たな介護のあり方を探る努力である。以下省略
以上のような三つのポイントに着目した取り組みを進めることで、一定の成果が得られれば、要介護者数の抑制や、介護職員の人材確保と負担軽減などに貢献できるのではないか。
誰しも介護を受ける可能性がある。みんなが自分の問題として介護保険の未来を考えるように願っている。
厚生労働省 介護給付分科会 令和5年7月24日付
介護関係職種別の年齢階級別構成割合及び平均年齢資料で全体平均年齢 50.0歳
うち訪問介護員 54.4歳
うちサービス提供責任者 47.3歳
うち看護職員 45.7歳
うち介護支援専門員 51.9歳
ほぼ50歳代の方が介護に従事していることがわかる
今後の介護保険制度を維持するには上記垣添忠生先生の指摘内容を考えていくしかないと思っています。
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